はじめに
国内・海外で年々注目が加速している金継ぎ。
金継ぎとは、割れたり、欠けたり、ヒビが入った器を、漆(うるし)と呼ばれる漆の木の樹液を加工した塗料を用いて修復し、最後に金などのお粉でかわいらしく仕上げる日本の伝統技法です。モノがまだそれほど多くはなかった時代には、壊れたモノを修復してもう一度使うことは当たり前でした。大量生産・大量消費の今も受け継がれるべき、日本の素晴らしい文化だと思います。
この金継ぎを職業にされている日本中の職人さん(「金継ぎスト」と呼んでいます)にインタビューをしました。金継ぎを始めたきっかけや、その想いを伺う中、それぞれの金継ぎストの人生に触れることができ、全く予想もしていなかった発見の宝庫でした!
ミッション
金継ぎを、金継ぎストからの目線で語っていただき、世の中に広く知ってもらう!
今回の金継ぎスト:漆ギャラリーあさい 浅井 啓介さん
愛知県小牧市で本漆を使った金継ぎを行っている、漆ギャラリーあさいの浅井 啓介さんが、快くインタビューをお引き受けくださいました。その内容をご紹介します。
店舗情報
【アトリエ】漆工房あさい 愛知県小牧市東田中1022 Tel: 090-9338-5719
【ギャラリー】漆galleryあさい 愛知県小牧市新町1-172 Tel: 0568-76-2440
ご自作の作品を展示
【金継ぎ専門店】星が丘テラス (EAST 3F) 樣の美 漆ギャラリーあさい
毎週火曜日/土日不定期 OPEN Tel: 090-9338-5719
【漆教室・金継ぎ教室】 漆の文化を広めるため、教室を主宰。
愛知県小牧市・知立市・名古屋市で開講。
金継ぎインタビュー
伝統工芸の材料・道具屋さんへの思い
インタビューの冒頭、伝統工芸の材料・道具屋さんの現状についてお話いただきました。現在伝統工芸に関する産業が落ち込んできており、職人さんの数も減っていることで、材料・道具屋さんへの需要が減り、後継ぎ探しに苦労する危機的な状況だそうです。漆掻き(漆の木から樹液を採取する職業)さんも減っており、漆芸の分野ではこの技術を保存するために急いで動画を撮っているそうです。一方、金継ぎのブームにより蒔絵筆は手に入らないほど人気だそうです。
現在入手困難ですが、蒔絵筆を取り扱っている堤浅吉漆店のホームページはこちら:
蒔絵筆【村田九郎兵衛製】
漆芸・金継ぎの世界に足を踏み入れたきっかけ
浅井さんは愛知県出身で、父親より尾張漆器の漆の塗りを習われていました。昔からの職人の育て方として「外飯を食わせたほうがいい」、つまり実家の外に出て習った方が良いと言われていることもあり、石川県輪島市に出て蒔絵を習得されました。
行為から派生する金継ぎ
海外ではアクション・ペインティング※というものがあります。1940年代から欧米に広まり、ニューヨークの作家達が活動しやっと1960年代にアートとして認められたものです。金継ぎは室町時代からある技法ですが、割れるという行為から、再生し、新しい景色が見える点で、アクション・ペインティングと共通点があるように思います。
※アクション・ペインティングとは、身振りなどによる抽象的な絵画です。垂らしたり飛び散らせたり汚しつけたりするような方法でできた作品は、具体的な対象を描いたというより、絵を描くという行動(アクション)それ自体が強調されたものとして認められています。
ご活動の情報発信
ホームページ、ツイッター、インスタグラム、ブログ、展覧会など数々の媒体で情報発信されている浅井さん。SNSは主に奥さんがご担当されているそうです。浅井さんは名古屋にある星が丘テラスからお声がかかり、金継ぎ教室と修理受付を始められましたが、お客様には星が丘テラスを通じて浅井さんのホームページを検索いただき、見つけていただくことも多いそうです。
漆芸に興味を持たれる方について
金継ぎ教室の受講者と修理の依頼者はどちらも増えており、現在浅井さんの活動の約6割以上を占めるようになったそうです。昔は60代くらいの方が多かったのですが、最近は30~40代で子連れの方も増えているそうです。金継ぎ教室参加者の大半は女性で、陶芸をされている方が金継ぎを始められることも多いそうです。金継ぎの修理依頼が増えるとともに、浅井さんご自身でも金継ぎが上達している実感があるそうです。また金継ぎ教室を受講されている方が、お箸にも漆を塗ってみたいなと興味が広がり、漆塗りや漆芸全般に興味を持たれることがあるそうです。また浅井さんの金継ぎ教室を受講されて、プロになられた方もいらっしゃるそうです。職人さんは数をこなすべきだというお考えもあり、遠慮なく教室から独立していただいて、友達やお客さんの器を修理していってほしいとおっしゃっていました。
浅井さんの金継ぎスタイル
いつもお客様とお話しながら、金継ぎ修理のお見積りをされています。コミュニケーションをとることで、お客様がどのようなタイプの方なのか、その好みなどを把握されています。金継ぎで修理するというより、傷を「姿」にする ― 傷もカッコいいという風に仕上げたいそうです。お客様との対話のなかで、傷をフラットにする・盛り上げる・へこませるなど、どのような形が合うか決めていらっしゃいます。またお値段がご予算に合わない場合は、最低限これくらいにしよう、などとご提案の上調整されています。まるで、お客様に、職人に会いに長屋に来てもらうような感じ、修理を受け付けていらっしゃるそうです。
金継ぎは漆芸の一部ですので、特にお客様からご要望がない限りは、伝統的な手法を用いて金継ぎされているそうです。金継ぎは線描きが最も難しいのではないかと思いますが、浅井さんは金のラインをなるべく目立たないように細くされることが多く、あくまで器がメインで、金・銀のお直しはできるだけ目立たないように心がけていらっしゃるそうです。お客様にはいつも喜んでいただいて、インスタグラムに金継ぎされた器をあげてくださる方も多いそうです。
Artist、職人としての暮らし
良い面としては時間の自由がききますが、その反面、生活していく上でその収支は気にしなければならないと思います。しかし、さすがArtistだなと思ったのは、自分で創造的なモノを作り出すことがうれしく、楽しんでいらっしゃることです。勉強すればするほど、その知識や技術が肥やしになり、死ぬまでできるのも良いところだそうです。この世の中、大学まで卒業するのが当然のようになっていますが、手先の器用な若いころから、例えば中学校を卒業してすぐに職人になるのが、一流の職人になるには近道であるとも思います。昔は丁稚奉公(でっちこうぼう) [年少のうちから下働きとして勤めはじめること] として職人になり、さらに勉強するために東京美術学校(現:東京芸術大学)などに入り、様々な名工の手板(ていた)を見て技術に磨きをかける…といったことが多かったようですが、今は変わってきており、大学を卒業してから職人になるような流れになってきているようです。
金継ぎに対するポリシー
「器ファースト」!
あくまで器がメインで、器に合わせてお直しされることを意識していらっしゃるそうです。
金継ぎの教え
精神論の様になりますが、心に傷を負っても、傷は傷ではないことを金継ぎが教えてくれます。人生の中でへこむこともありますが、金継ぎはそういったことを訴えかけてくれる、シンボリックのように思います。
浅井さんが金継ぎ教室・修理受付をされている名古屋の星が丘テラスでは、様々な修理に取り組んでおり、修理の種類としては刃物研ぎ、靴の修理、家具の修理など色々ありますが、金継ぎほど長く続いているカテゴリーはなかなかないようです。人々が、金継ぎで修理された器を誰かに「見せたい」という心理が影響しているのかもしれません。まるで、きちんとした生き方を提示する「エシカル思考」の一つのようにも思います。
また浅井さんは、新品のように修理するというよりは、日常の器にできる「傷」を大切に修理されたいと考えていらっしゃいます。最近は、お箸の先の漆が剥げてしまったものを、全体に漆を塗って新品のように復活させるのではなく、傷のみを拭漆で新しい色に仕上げ、傷を「すごみ」としてより芸術的な作品に進化させています。
愛知県の漆芸について
愛知県の伝統工芸品「尾張漆器」がモチーフとなっているカワイイ女の子のキャラクター、小漆(こうる)ちゃんを紹介していただきました(ツイッターでも活躍中)。小漆ちゃんには漆器の魅力をどんどん配信していただきたいと思います。
金継ぎマッチングプラットフォームについて
取材者Yukiは、金継ぎや伝統工芸を一般の人にもっと普及させ、職人さんにより活躍してもらいたいと思い、インターネット上にマッチングプラットフォームを構築したいと考えています。これについてご意見をお願いしたところ、以下のようなご意見をいただきました。
器が直ることを知らない方がまだまだ多いです。一般の方の多くはインターネットで調べて来られますので、もっと知っていただけるようインターネットに注力すると良いと思います。
職人さんにとっては、金継ぎの需要が増えても価格競争にはならなければよいなと思います。また、漆屋さんとお話することで、材料・道具を買いに来る職人さんにアプローチできるかもしれません。もっと金継ぎ修理が増えれば、材料・道具の購入も増えて、漆屋さんにとってもメリットがあるのではないでしょうか。
金継ぎの様子
金継ぎの最終工程、磨きの作業の様子を見せていただきました。プロの手さばきです。また、現在手に入りにくい磨き粉も紹介していただきました。昭和の雰囲気が漂うレトロな缶に入っていてかわいかったです。いい匂いがするそうです。
最後に
大変優しいお人柄で、お客様との親身な対話から、お客様にとっても器にとっても最適なお直しをされている様子が伺えました。また、お話しの中で、ご自身のアーティストとしての感性とクリエイティブなお考えが溢れていました。これからも傷を生かした金継ぎによるお直しで、人々に笑顔を与えていっていただきたいなと思いました。
最後にツーショットを撮らせていただきました。
お忙しい中ありがとうございました。
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