はじめに
国内・海外で年々注目が加速している金継ぎ。
金継ぎとは、割れたり、欠けたり、ヒビが入った器を、漆(うるし)と呼ばれる漆の木の樹液を加工した塗料を用いて修復し、最後に金などのお粉でかわいらしく仕上げる日本の伝統技法です。モノがまだそれほど多くはなかった時代には、壊れたモノを修復してもう一度使うことは当たり前でした。大量生産・大量消費の今も受け継がれるべき、日本の素晴らしい文化だと思います。
この金継ぎを職業にされている日本中の職人さん(「金継ぎスト」と呼んでいます)にインタビューをしました。金継ぎを始めたきっかけや、その想いを伺う中、それぞれの金継ぎストの人生に触れることができ、全く予想もしていなかった発見の宝庫でした!
ミッション
金継ぎを、金継ぎストからの目線で語っていただき、世の中に広く知ってもらう!
今回の金継ぎスト:モノ継ぎ 持永かおりさん
東京都世田谷区で岩手県産浄法寺漆を使用して金継ぎを行っている、モノ継ぎの持永 かおりさんが、快くインタビューをお引き受けくださいました。
持永さんのお話から学んだことを、私見を織り交ぜながらまとめさせていただきました。
持永 かおりさん紹介(モノ継ぎ ホームページより)
多摩美術大学にて、ガラス工芸と陶芸を専攻。
92年卒業後、陶の作品を制作・発表しながら、赤坂に本部を置く「いけばな草月流」本部造形科陶芸コースにて、加藤清之氏・小川待子氏のアシスタントとして指導に当たる。
2008年頃より、修理のための漆の勉強を始める。
二十年来、数多くの美術品や花器・陶磁器を修理・修復してきたことを生かし、2011年に世田谷区の自宅にて個人ワレモノ修理プロジェクト「モノ継ぎ」を立ちあげる。
2013年より、漆芸蒔絵第一級技能士である小林宮子先生主催の蒔絵教室にて、蒔絵と漆全般の知識と技を学ぶ。
D&DEPARTMENTのデザインリサイクルの趣旨に共感し、2014年より同社のリペアネットワークに参加。 現在、陶芸の指導と金継ぎの受注に加え、2ヶ月に一度のD&DEPARTMENT TOKYOでの金継ぎ公開受付を開催中。
出版
繕うワザを磨く 金継ぎ 上達レッスン (コツがわかる本!)
メイツ出版 (2017/9/25)
内容紹介
・ 伝統の漆技法をもとに、大切な器を美しくよみがえらせる
・ 小さな欠けこそ丁寧に。ポイントをわかりやすく解説
・ 基本と応用を1冊でマスター。コツをつかんで自在にアレンジ
金継ぎインタビュー
漆芸・金継ぎの世界に足を踏み入れたきっかけ
「いけばな草月流」にお勤めになられていた頃、花器やオブジェの修復を合成接着剤でされていたそうですが、食器として使用するお友達の器にはエポキシを使用することができなかったため、漆を使った金継ぎを始めたそうです。この頃は今ほど金継ぎが知られておらず、本やお教室も見つからなかったそうですが、「金継ぎnico」さんによる、「自分でできる漆金継ぎセット」を購入されて、持永さんご自身で挑戦されました。このキットに岩手県の浄法寺漆が入っていたことから、今も浄法寺漆を使用されているそうです。「いけばな草月流」でのお勤めと並行して4~5年間、ご自身で金継ぎを勉強されたそうですが、その後東日本大震災があり、多くの器が壊れ失われたときに、看板を上げて金継ぎ修理を始められました。また修復だけでなく、仕上げの技法として蒔絵も習得され、さらに技術に磨きをかけられました。
持永さんは美術大学をご卒業されているため色々な素材のものを扱って創作されてきましたが、当時漆を使ったことはなかったそうです。そのため、温度や湿度の管理が難しい漆は最初扱いづらかったのですが、いつも漆と対話するように接していき、だんだんと漆の「気持ち」が分かるようになってこられたそうです。
金継ぎ修理のご依頼について
修理をご依頼される方は益々増えているため、現在、お直し待ち時間として、割れの修理で6〜10ヶ月程みていただいています。常に150人待ちの状態が続いていたため、最近ではあまり多くの量を抱えすぎないように調節されいるそうです。今後はワークショップを積極的に行い、皆様がご自分で金継ぎできるようにもされたいそうです。しかし、現在金継ぎ職人さんがどんどんお教室やワークショップをされ、その代わりに金継ぎ修理の受付が減って行き場のない器があるのではないかとも考えるため、持永さんはこれからも修理の受付をやめないそうです。
金継ぎの仕上がりデザインについて
金継ぎというと金を思い浮かべる人が多いと思いますが、金を依頼する人は半分以下で、銀や漆仕上げも多いそうです。漆は白、弁柄、黒呂色などがあり、これらは金より安いですし、後で金が摩耗していく心配も減ります。また金継ぎは偶然と必然ででき、着飾るわけではないので、持永さんはそのシンプルなところが好きだそうです。
器にあったデザインを職人さんと相談することで、自分好みの器に修理することができるのですね。
金継ぎの金額について
金継ぎは決して安くないので、壊れた器は何でも全部直そう!と思う人は少ないのではないかと考えます。一生に1~2回くらい、大切なモノに金継ぎ修理をやってみる感じかもしれません。しかし、爪のネイルに毎月1万円くらいかけている方もいらっしゃるので、人によって何にお金をかけるかは、価値観が違うのだなぁと思います。
色々な種類の金継ぎ
現在、簡易金継ぎと呼ばれる比較的価格の安い手法での器のお直しがありますが、伝統的な金継ぎと簡易金継ぎの違いを知っている方は少ないのではないでしょうか。お客様にはこの違いについてご理解いただいた上で、選んでいただくのが良いかと考えています。
日本産の漆へのこだわり
持永さんは日本産の漆を使うことにこだわっていらっしゃるとのことです。現在、日本で消費されている漆の97%は中国産の漆で、平成30年度から文化庁が国産漆を使うことを推進しています。国宝・重要文化財建造物の保存修理では、全面的な国産漆の使用を目指していて、漆の増産が課題だそうです。ここで日本産の漆の多くを生産する浄法寺は町ぐるみで漆の木を植えようと活動されていて、漆の需要が増えれば木も増えるのではないかと思います。もちろん日本産の漆は中国産の漆より値段が高いですが、金継ぎにはそれほど多くの量の漆は使わないので、原価が修理費用を大きく圧迫することはそれほどないそうです。
職人としての暮らしについて
基本的にお一人なので、誰にも守ってもらえない大きな責任を背負ってお仕事をされているそうです。もちろんどの仕事もそうですが、一つ一つ手を抜けないですし、金継ぎについてのお客様への事前の説明が大切だとおっしゃっていました。
金継ぎマッチングプラットフォームについて
取材者Yukiは、金継ぎや伝統工芸を一般の人にもっと普及させ、職人さんにより活躍してもらいたいと思い、インターネット上にマッチングプラットフォームを構築したいと考えています。これについてご意見をお願いしたところ、顧客にとっては顔が見えない点に不安があるかもしれませんが、これから金継ぎ修理を職業にしようとする方にとっては良いかもしれないと伺いました。
オンライン上でのやり取りにはなりますが、職人さんが信頼できる方であることをプロフィールや説明などでしっかりとお伝えできるようにし、お見積りやデザインなどメールで十分にすりあわせができる、安心した場所を提供できるよう、頑張ろうと思います。
お仕事場の様子
医療用のメスがあったのが印象的でした。(昔師事されていた先生がお使いだったことから、持永さんもご使用になられているとのこと。)とても使いやすいらしいです。
最後に
「漆は生き物のようで、いつも漆と対話(今、固まろうとしているのか…?)しながら金継ぎしている」とおっしゃっていたのが印象的でした。これからも、一つでも多くの器を救っていただきたいです。ワークショップなど新たな挑戦もされていく持永さんを、心より応援しております。
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